第2章 情報はインテリジエンスを支える資源

1.華僑のインテリジエンス力は、「情報網」にある。

40年近く前、スペイン船籍のおんぼろ貨客船(戦前の移民船)でイタリアのジェノヴァ(Genova)からメキシコのベラクルス(Veracruz)まで旅をしたことがある。船がジブラルタル海峡(Strait of Gibraltar)を抜けての最初の寄港地はカナリア諸島(Islas Canarias)のテネリフェ(Santa Cruz de Tenerife)であった。この諸島はアフリカ北西部のモッロコの沖合いにあるスペイン領である。

短い寄航時間の間に港町をぶらついて驚いた。中国人の店がたくさんあったことに。私の感覚ではなんとなく世界の果ての孤島という感じであったのに、こんなところにも中国の人は店を構えているのか、という驚きである。

この驚きは、船がカリブ海に入って、キュラソー島(Curacao)、プエルト・リコのサン・フアン(San Juan, Puerto Rico)、ドミニカ共和国のサント・ドミンゴ(Santo Domingo, Republica Dominicana)と寄っていくたびに重なっていった。この調子では、世界のどこに行っても、中国の人が根付いているのではないかと思わざるをえなかった。

この地球上でひっくるめて「華僑」と呼ばれる、中国本土の外で永住している中国人がどれだけの数がいるのか私の知るところではないが、世界の果てにまで住み着いている印象からすれば、膨大な数であろう。

もちろん彼らの情報は華僑全体に満遍なく流れるものではなく、血縁・地縁によって水平に何階層にもなって流れているのだろう。世界のどこに住んでいようが、どのような会社や団体に属していようが、血縁・地縁をベースにした集団の中では、最新の情報が駆け巡っていることだろう。

世界を相手にしてビジネスをしているのに、かの地のことを知ろうともせず、日本でのやり方がそのまま通用するが如く日々目の前の業務をこなしている姿をみるにつけ、不思議の世界に迷い込んだ気がする。(2007.06.15.篠原ブログ)