―篠原ブログ(319):ゲルマン語とラテン語・フランス語―

英語やドイツ語のゲルマン語系は、ローマ時代にはそのラテン語の影響を受けたことはなく、ラテン語を借用し始めるのは中世以降、特にルネサンス以降に、知識人が頭で輸入したものがほとんどである。但しイングランドは、11世紀にフランスにいたノルマン族に征服された時があるので、そのとき大量の俗ラテン語であるフランス語が英語に導入された。

さて、今回の主題は、論理的に表現するための師匠は誰か、ということで、結論から言うと、ローマの前の師匠であるギリシャ語とその生徒のラテン語が欧州の先生のようだ。ドイツ語や英語も理屈っぽいが、それはどうやらローマのずっとあとになって、必死にラテン語を学び取り入れた成果なのではなかろうか。

一方、ラテン語の直系にあたるフランス語、スペイン語、イタリア語はどうかと言うと、論理的であるはずだが、どうも印象としてはそれよりも「愛」を語るのに適した言語に変化していった気配が強い。つまり、われわれが理解する「ロマンス」の方に主軸が流れたのではなかろうか。その意味では、これらの言葉はラテン語系と言うより「ロマンス語」と呼ぶほうが感覚的にはぴったりする。

なお、ラテン語とは、ローマ人が侵入し、支配権を握った今のローマ市を中心とする地方の名称がラテンであり、そこの土着の民族の言語であったことに由来する。つまりローマは自分達の言語(どのようなものかは不明)を捨てて、あっさりと、言語として格段に優れていたラテン語を公用語として採用したらしい。

当時のローマ人は偏屈ではなく、開かれた心の持ち主だったのだろう。同時に自分達のラテン語よりもギリシャ語の方が優れているとみなし、教養ある人はみな懸命にギリシャ語を学習したようだ。そのラテン語が、ローマが押さえた地域ごとに変化したのが今のフランス語、スペイン語(正式にはカスティリャ語)、ポルトガル語、カタロニア語、ルーマニア語などである。従い、これらの言語はローマ風のという意味でロマンス語と称されることにもなる。

ラテン語そのものは日常の言語ではなくなり、欧州のエリート層の子弟を悩ませた古典文学と文法の授業とカソリックの公用語としてのみ生きてきたことになる。論理的に表現するということ、事実をできるだけ正確に描写することから出発している。欧州において長い、長い研鑽と変化の歴史から生み出されたものである。(2007/02/13)