1.篠原ブログ:(1079) 近代文明とラテン文化(2012/10/01)

我々がその下で息をしている「近代文明社会」は別の呼び方をすれば「西洋(式)近代文明」となる。西洋とは漠然と欧州のことであり、その中を大きく分けるとゲルマン系とラテン系とスラブ系の三つとなる。このように雑な分類をすると、ケルト人(Celtic)の末裔であるアイルランドの人たちから文句が出るだろうが細かいことは抜きにする。

15世紀、16世紀の昔であれば、西洋といえばまず何よりもスペインやイタリアが代表であり、誰もがこれらの地域を真っ先に思い浮かべたであろう。ところが、われわれは西洋と聞いて真っ先に頭にイメージするのはイギリスでありその分家のアメリカ合衆国でありドイツである。中にはもちろん西洋イコール「おフランス」という熱狂的フランス派もいるけれど(最近随分と減ってしまった)、中心はゲルマン系となっている。これはもちろん産業革命以来の大英帝国(Great Britain)および後継者のUSAの大躍進の結果である。

話は逸れるが、大英帝国という日本での昔の呼称はこの「Great Britain」から出てきていると思われるが、元々はローマ帝国がその植民地を「Gran Bretania」つまり「ブリテン大島」と呼んだことに始まる。島が大きかったから「Gran」であり、そこには「偉大な」とか「強い」というような意味合いは無い。

ローマ帝国が崩れそうになってこのブリテン島の(今の)イングランド地方に駐留していたローマ軍が大慌てで本国に帰ってしまった後(5世紀)、今のデンマークの南あたりにいたゲルマン族の一派であるAnglo族とSaxon族が空き家に入り込んだのがこの「大英帝国」の始まりである。つまり、彼らはローマ文明を直接味わったことが無いけれど、なぜかこのGreat Britainという呼び名が大のお気に入りであり、今でも国の略号を恭しくGBとしている。

それであるから、現在の文明を西洋式と呼ぶのははなはだ明確性を欠くものであり、厳密にはゲルマン式あるいはその代表であるアングロ・サクソン式文明と呼ぶべきであろう。このように分類することによって、ローマ文明の直接的な末裔であるイタリア、スペイン、フランスといったいわゆるラテン系の国(あるいは地域)の人々が19世紀末から始まる現在の近代文明に対する感情を理解する糸口が開かれる。 簡単に言えば、これらのラテン系の人々はアングロ・サクソン式文明に複雑な「アンチ」の感情を持ち続けている。またこの文明システムにも根本では馴染んでいない。(2012/10/01)