17.篠原ブログ:(1095) ワインとビール (2012/10/29)

酒は有名銘柄よりも聞いたこともないようなラベルのものが良い。弱小無名の銘柄こそ手造りの産物であるから、そこには温もりがあり機械製造の冷たさはない。

私事で恐縮だが、私の母の実家は江戸時代から続く兵庫県灘の造り酒屋であったが、著名銘柄の大手ではなく、全国ブランドからは程遠い中堅以下の存在であった。それでも問屋に卸す酒のすべてが自社製造品ではなく、地方の零細造り酒屋から買ってきた酒(「樽買い」と呼ばれた)を混ぜて卸していたらしい。電機・機械メーカーでいうOEM製品の組み込みである。零細メーカーは自社ブランドで流通に流す資金も不足しているし、OEMで流せば在庫品を抱える心配もないので、このような関係が成り立っていたのだろう。中堅以下の酒屋でこれだから、灘の酒として有名な全国ブランドともなると、どれほどのOEM製品が混じっていたことやら。

話が主題からそれそうになったが、ラテン地域(イタリア、スペイン、フランス)の酒はワインでありゲルマン(ドイツとイングランド)の酒はビールである。もちろんドイツにもライン川(Rhein)流域で産するラインワインがあり、ライン川の支流のモーゼル流域のMoselワインなどは日本でもよく知られている。しかし、これは例外的存在であり、ドイツではなんと言ってもビールであろう。最も、北部のドイツ人はそれほどビール愛好家ではないのかも知れない。昔、勤めていた会社がハノーバーの国際見本市に出展したとき、ブースの説明員としてアルバイトで雇っていた地元の女子大生はほぼ全員、ミュンヘン式のどでかいジョッキでの“ガブ飲み”を毛嫌いしていた。

(*)会場内にあったミュンヘン式ビアホールで打ち上げやろうかと持ちかけて総スカン食ったのでこの話は確かである。

イングランドはビールだけである(ウイスキーはスコットランドとアイルランドの産物)。スタウト(stout)と称される黒茶色のビールはお世辞にもうまいとはいえない。それ比べれば、ワインは天国である。スペインの庶民が家庭で飲む名もないブランドの赤ワイン(vino tinto)こそ絶品と言える。手造り製品には温もりがあり、それを手にする、あるいは口にすることが最も贅沢であるという話をしたかった。

今は、日本でも、灘や伏見の酒の神話が薄れて、全国各地の小規模酒屋の酒が豊富に出回るようになり、まことに結構な話である。有名ブランドに惑わされない本物志向の愛好家がまだまだ大勢居る証拠と言えよう。