―日本の半導体事業が衰退した、もう一つの理由―

日本のメーカーが世界のDRAM(Dynamic Random Access Memory)市場を席巻し ていたころ、知り合いになった半導体技術者から、知っていますか?とたずねられた ことがある。なぜ日本のメーカーはメモリーチップでは圧倒的勝利を収めても、マイク ロプロセサではインテルやAMDに遠く及ばないのか、そのわけを知っていますか、と いうことだ。

答えは、日本のメーカーはマイクロプロセサの仕様書が書けないからだ、であった。彼の話によると、仮にDRAMの設計仕様書が100ページで収まるとすれば、マイクロプロセッサーのそれは、その10倍も20倍も、すなわち千ページも二千ページもの仕様書になるとのことだった。 この話を実証する能力は私にはないが、およその察しはつく。

メモリーチップの命は 書き込みと読み出しの速度である。極めて単純な仕事を命令に忠実に迅速に行なえばOKである。一方、マイクロプロセッサーは司令塔であるから、周りのすべての存在 に気を配らなければならない。したがって、その関係を一つ一つ規定していけば、書いても、書いても終わらないことになろう。とてもじゃないが、論理力の拙い日本人が乗り出せる世界ではない。(篠原談話から引用)

―ドイツからアメリカへ出した特許登録公報を読んで感じたことー

ドイツからアメリカへ出した特許登録公報を読むことで「意外」な ことに気がついた。ドイツは、ご承知のように職人の技知的財産(ノ ウハウ)を大切にし、尊重する伝統が守られている。今、日本では技術のオープン(開示)とクローズ(守秘)というのが流行っている。これは、外へ出すか(出願する)出さないか(出願しない)の選択である。

「意外」というのは、全ての技術を開示せずに、隠すところは隠しながらも(意図的?)妙に納得させられる特許登録公報になっていることである。開示するところは抜かりなく明確に開示し、隠したいところはサラリと尤もらしく書く。このバランスは、実に巧妙で、しかもロジカルになっているから審査官も思わず「うん、うん」と納得するのであろう。さすが、文書作りのプロ技である。これが日本であれば、開示すべきところまで訳の分からない、全てを隠した曖昧文書になるのであろう。(篠原レポートから引用)