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「AI」では出来ない「戦略的特許調査」のすすめ

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「AI」では出来ない「戦略的特許調査」のすすめ

IPMAが考える、
「AI」では、出来ない「戦略的特許調査」

  1. 新規事業・新商品開発の成功に必要な「戦略的特許調査」の勧め
    新規事業を成功させるには大切な調査が三つある。まずは(1)、経営陣、事業推進責任者、研究開発責任者の情報ニーズを的確に掴み、新規事業に関連する情報収集と、その情報の「分析・解析」を行い、経営戦略、あるいは事業戦略に組み込むためのマーケテイング調査である。

    この段階では、未だ具体的な商品コンセプトや技術戦略は策定されていなく、“自社が持っている技術を新規事業で活かすことが出来ないであろうか”、といった状態かと思う。取りあえずは、市場動向、企業動向、技術動向等を探り、自社の事業戦略を練り、商品コンセプトを絞るのが目的である。

    続いて(2)、商品コンセプトの方向性が見えてくると、新規事業を優位に進める為に必要な技術の洗い出しをする。まずは、自社技術の「強みと弱み」等を客観的に捉え分析する。そして新たに開発する新技術を確認する。つまり「研究開発戦略」の立案である。研究開発の方向性が見えてくれば、次は関連する知的財産権の権利状況等の調査をする。

    恐らくこの段階で、自社の事業戦略に必要な「商品戦略」と「技術戦略」が策定され、開発チームへ「研究開発テーマ」が与えられる。ここで重要なのが、「自社が踏み込んではいけない技術領域を早く見つけることである。

    そして(3)、自分たちが考えている新技術を具体化させ、他者の発明技術(特許)と比較し、事業の優位性を確保するに必要な、特許の安全確認と自社が自由に研究開発できる技術領域を見つけ出すことである。

    この時点での課題は、技術者たちが考えている新技術の多くが、未だアイデア段階で具体性に乏しいことである。アイデア段階の新技術を具体化して行くには、それら新技術の共通事項を取り出して、抽象度を上げていくしかない。これが「戦略的特許調査」の目的である。

  2. 「戦略的特許調査」を実践する
    ここで、A社プロジエクトの「知財支援」をお手伝いした経験を紹介する。このプロジエクトチームには、知的財産活動をサポートする知財人材(知財リエゾンマン)は配置されていなかった。

    本社の知的財産本部へ支援を御願いしても“新規事業の技術(*)をサポートできる知財マンが不足しているので人を出せる余裕がない。開発設計の途上で困った時は、相談を受けるが、現場に張り付いて、研究、開発、設計実務での知財支援は難しい“という事情を抱えていた。

    (*)
    ネットワークコンピューティング技術が含まれ、技術領域が多岐に及ぶ開発グループに具体的な「開発設計仕様書」が存在しているわけではない。まだ開発技術者の「アタマ」の中には「アイデア技術」があるという「抽象状態」であった。大げさに言えば何も無い状態からのスタートである。まずは、研究開発技術者(以下、技術者)たちからの聞き取り作業から始めることになった。

    技術者たちから聞き出した情報を文書へ落とし込み(*)、技術者たちとの確認作業と修正作業の繰り返しで「パーツ」⇔「ユニット」⇔「ブロック」⇔「システム」毎の「開発設計仕様書(案)」を作り上げていった。

    (*)文書化には創造技法ソフト(MEMODAS)を利用しました。「聞き出しマニュアル」も作れました。因みにMEMODAS本体は無料開放しています。MEMODASに関心のある方は、こちらを訪問してください。
    https://www.ipma-japan.org/mc_method.html

    こうして作られた「開発設計仕様書(案)」を叩き台にして「技術要素」の抽出と、技術の「構成要件」を整え「先行技術調査」をした。そして、それらの構成要件毎に他社の特許技術との比較をしながら、特許権の侵害予防を目的とする「特許侵害回避調査」へと進めた。

  3. 「知財の安全と事業の優位性」を確保するのが目的
    先に述べた通り「戦略的特許調査」とは、研究、開発、設計を具体的に進めていく上で、「知財の安全」と「事業の優位性」を確認、確保するための特許調査である。

    即ち、現場の技術者たちが他社特許の権利侵害に対して「安心」して開発設計ができる環境を整え「開発効率(生産性)を上げることが目的である。つまり、自社が踏み込んではいけない「技術領域」と自由に開発できる「技術領域」の確保である。

    因みに、新技術の基本設計段階からの参加となったが、その後のVerアップ、設計変更なども含め、長いお付き合いとなった。その成果として、先行技術調査や侵害予防調査等の「調査マニュアル」を残すことが出来た。

    また、プロジエクト内に「知的基盤(データベース)」が構築されたことで、メンバー間での情報(知識、知恵等)が「共有」され、若手技術者への「伝承」も可能となっている。
  4. プロジエクトリーダーの決断が成功へ導く
    この新規事業が、上手く立ち上がった最大の要因は、新規事業推進リーダーの知財に対する理解であったと思う。リーダーの考えは明確で、迷いは無かった。例えば、プロジエクト内に知財責任者を配置し、調査員へ「丸投げ」することはしなかった。

    “うちの技術者の頭の中にある情報を100%以上聞き出して欲しい。そして我々が進むべき目標へ辿り着くに必要な航海図を作成して欲しい。そうすれば特許侵害係争も激減し、わが社も強い特許が作れる”と。

    さらに“知財コストは大幅に削減される。またプロジエクトメンバーは、この調査過程で構築された「知的基盤(インフラ)」を使いこなすことができる。開発設計の効率は格段と上がり、技術者も時間的余裕とリスクからの開放で大いに活性化される。何事を行うにも準備が必要で、その為の予算は確保する。”という明確な考えを持っており部下からも信頼されていた。

  5. 「AI」では出来ない“心が通じ合う”人間本来の仕事をやるべき
    現場の技術者たちから聞き取ることで、お互いのコミュニケーション能力は高まり信頼関係も築かれていったと思う。技術者たちは自分のアイデアや発明の凄さを理解してくれる人が身近にいれば嬉しくなるのは当然である。やがて次から次へと新しい情報を出すようになった。

    驚いたことに、聞き出したことを文書化することで、技術者たちの「発想の転換」が促され、新しいアイデアが「ドンドン」と出るようになった。「創造力」を身につける(鍛える)には、その繰り返しでしかないことを改めて実感できた。

    当初、技術者たちは調査員の支援能力に半信半疑(当然)であった。しかし日が経つにつれ、リーダーをはじめ現場技術者たちからの質問が増え議論が活発になた。この経験で、技術者たちの「発想を転換させる機敏」と「知を生産する手法(技術)」の源泉に触れることが出来たことは幸運であった。

  6. 新規事業を成功させるには「実験研究」の前に「調査研究」をする
    「調査研究」には「課題探索型調査(*)」と「課題解決型調査」がある。「課題解決型」の調査には、1)、調査対象の内容(技術)が、比較的明確である「出願前調査」「審査請求可否調査」「無効資料収集調査」等がある。2)、調査対象の内容が明確になっていない「ボンヤリ」とした状態からの特許調査で「技術動向調査」や「侵害予防回避調査」等がある。IPMAは、これらの調査を「戦略的特許調査」と呼んでいる。

    (*)「筋の良い研究開発テーマ」を発掘する為の調査です。興味がある方は、クリヤ・ビューの「成熟・衰退期における筋の良い研究テーマの発掘法」を参考にして下さい。
    https://www.ipma-japan.org/member-service_05.html

    1)の特許調査は、該当技術領域に詳しい技術者が特許調査の基礎知識とノウハウを習得すれば、難しいことではない。また数をこなし経験を積み重ねることで、その技術分野の土地勘が養われ「自身特有」の調査ノウハウが身に付き、周りから頼りにされる存在にもなれると思う。また外部へ委託する場合でも的確な指示ができ、調査結果に対しての評価も正しく出来る。

    一方、2)の特許調査は、正直に言って負担が大きい面倒な調査である。“他者の特許が気になるが、何処から手をつけて良いのか分らない、取りあえず気になるところから(主観)から調査すればいいだろう”という漫然とした状態で特許調査を進めると必ず失敗する。

    「主観的特許調査」の結果は、羅針盤の無い航海に出るようなもので、特許情報の海で間違いなく漂流する。目的地に辿りつくための羅針盤に沿った特許調査を行う理由がここにある。羅針盤に沿った特許調査とは、特許調査をスタートする前に、まず「自分情報」を「分析・整理」をし、正確な「特許航海図」を作ることである。

    ご承知のように、特許調査の基本は自分と他人の比較である。従って、まずは「自分情報」を、しっかりと「分析・整理」をし、次に「他人情報」の「分析・整理」を行う。

    新商品開発において、大事なことは自分(自社)が最も重要とする技術(情報)は何か、を浮かび上がらせることである。つまり特定の機能を実現するための要素技術(手段)は何かを明確にすることである。

    そして他人(他社)が最も重要としている技術は何か、例えば特許公報に記載されている「請求項」の構成要件は何か、等を正確に読み取ることである。それを一語一句、比較しながら、その差を丁寧に落とし込んでいけば、夫々の技術の違いが見えてくる。場当たり的な思いつきの特許調査を漫然と繰り返していたのでは、自社事業の優位性を確保することは絶対に不可能である。

    「戦略的特許調査」の目的は、大きく三つある。一つは、特許の安全を確認すること、二つは、自分(自社)が自由に開発できる技術領域と事業の優位性を確保すること、三つは、無駄な特許出願を止めることである。

  7. 新規事業・新商品開発は「戦略的特許調査」を行わないと失敗する
    「戦略的特許調査」を進めるには、研究開発技術者の理解と協力が無ければ必ず失敗する。では「戦略的特許調査」について、もう少し説明する(*)

    (*)参考:戦略的特許調査の具体的な進め方のフロー図は、こちらにあります。

    【ポイント】:新商品を構成する(使われる)「要素技術」を、まず浮かび上がらせ、それらを分析し、整理をすることである。具体的な要素技術は次の3つが考えられる。

    ①機能:その新商品、システムが目的とする機能は何か、
    ②手段:その機能を実現する手段は何か、
    ③構成要件:その手段を構成する構成要素は何か、

    この③つのポイントを明確に浮かび上がらせるには、技術者たちを知財支援する「知財リエゾンマン」の配置が好ましい。「知財リエゾンマン」は、技術者たちから技術内容や様々な情報を聞き出し、それらの情報を文書化して確認と修正を繰り返す作業が必要である。

    それらは、新技術であるから「知財リエゾンマン」には分らないことがあると思う。しかし「質問力(論理思考)」と「理解力(技術背景)」そして「学習力(好奇心&感性)」と「応用力(柔軟性)」を持ち合わせていれば問題は無い。「知財リエンゾンマン」は、食材の特色を活かして新しいレシプを創作する料理人と相通じるところがあるようだ。

  8. 現場の技術者たちが特許調査するに弊害となる事情
    現場の技術者たちが「戦略的特許調査」を行うには、時間的な余裕がないのが現状かと思う。また「戦略的特許調査」を、どのようにして進めていけば良いのか分からない、という理由もある。それは「戦略的特許調査」について教えられことがなく経験したことも無いことに起因している。ただ、現場の技術者たちが自ら「戦略的特許調査」を行うには幾つかの障害がある。例えば

    ①.特許出願件数は年々積み上がる一方で、膨大な情報量になっている、
    ②.調査対象の技術領域が大きく広がり、かつ複雑な技術へと進化している、
    ③.要約文や図面で「ノイズ落とし」が可能な特許技術は減少している
    ④.特許明細書を細かく読み込む必要のある特許技術が増えている、
    ⑤.特許明細書に書かれている文章が曖昧で、判断に膨大な時間が費やされる
    ⑥.開発技術者にとって、当たり前、と思える特許技術が散見する
    ⑦.進歩性が極めて軟弱な特許技術が散見している、等

    要するに新規事業の商品開発に欠かせない「戦略的特許調査」を行うには、このような理由で膨大な時間が取られ、研究開発が遅れる因ともなっている。だからこそ、技術者たちを現場で支援できる「知財リエゾンマン」の育成が重要となる。

    会社は新規事業の新商品で会社の持続的発展を期待している。であれば「戦略的特許調査」に、それ相当の時間と人手を与える施策が必要である。技術者にとって「知財リエゾンマン」の知財支援はあり難い話に決まっている。「知財リエゾンマン」に協力をしない技術者はいないはずだ。(矢間伸次)
    (Ver1.0 2007/05/10)(Ver2.02017/11/30)

 

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